メルヘンもう半分
江戸の冬、永代橋のほとりにある小さな居酒屋が噺の舞台。この店は土間の上に醤油樽を並べたような簡素なつくりで、肴も紅生姜に芋の煮っ転がしくらいしかないが、茶碗いっぱいの酒を十六文で売るのでけっこう賑わっている。主人は眼光鋭く無愛想な男。女房も亭主そっくりの顔をしてこま鼠のように立ち働いている。この夫婦、もとは別の国に住んでいたのだが、ある事情があり、江戸へ出てきたことが会話のはしばしからわかる。ある晩のこと。春も近いのに降り出した牡丹雪を見て、夫婦はもう客も来ないだろうと店仕舞いの支度をする。そこへ「今晩は」という声がする。表を見ると、夫婦がかつて暮らしていた国に暮らす男の姿が。びっくりした亭主が訳を聞くと、故郷の国が危機に陥り、それを何とかするために江戸へ出てきたのだという。観音様の近くでこの店の噂を耳にし、訪ねてきたと男は懐かしそうに述べる。亭主は男を店へ招き入れ、酒を振る舞うが、女房は渋い顔。そこにはある事情があった。そして、客人の懐にあった思わぬ大金が、三者の人生を狂わせる・・・。<br/>
古典落語の「もう半分」を下敷きに、三遊亭白鳥式の独特な書き換えをほどこした一席である。歌舞伎脚本には「世界」と「趣向」という概念がある。物語の背景を「世界」、そこで展開されるストーリーを「趣向」と呼ぶ。たとえば、歌舞伎の「三人吉三」は「八百屋お七」の世界を背景に、そこへ「同じ名前の三人の男」という趣向を盛り込んだ脚本である。「メルヘンもう半分」は、三遊亭白鳥が子供時代に大きな影響を受けた「テレビアニメのメルヘン国」を世界に、「もう半分」の筋立てを趣向に仕組んだ噺ということになる。噺の大筋は「もう半分」によく似ているが、かつての国を逃げ出し、江戸へ移り住んだ居酒屋夫婦の陰影や、メルヘン国の住民による人間世界への告発などはオリジナルの味わい。また、雪の中での殺し場、薄暗い行灯に映し出される登場人物の姿など、視覚的で詩情がある。結末にも工夫があり、白鳥版の「もう半分」としてオリジナリティがある。怖くて楽しい因果噺。<br/>
第33回「浜松町かもめ亭」での録音。<br/>
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https://rakugo.ch/play/112
2018-04-08T00:00:00+09:00