文七元結
本所の達磨横町に住む左官の長兵衛は腕の良い職人だが、博打で借金まみれ。一家は路頭に迷っている。十七才になる一人娘のお久は、親の窮状を救おうと、吉原の大店、「佐野槌」に足を運び、みずからの体をカタに金をつくろうとする。店の若い者に呼ばれ、長兵衛もあとから店に駆けつける。佐野槌の女将は、長兵衛に意見をしたうえで、五十両を貸し与える。返済期限は来年の大晦日。金が返せなかったときはお久を店に出すという約束。帰り道、さしかかった吾妻橋で長兵衛は身投げしようとしている若者を助ける。聞けば、鼈甲問屋の手代で、店の金、五十両をすられたから、申し訳なさに身を投げるという。長兵衛の懐には五十両・・・。<br/>
三遊亭圓朝が、先行作品を改作して今の形にしたといわれる噺。歌舞伎にも脚色され、一席物の人情噺を代表する大ネタである。通常の構成では上記の通り、達磨横町の貧乏長屋、吉原の佐野槌の場面があり吾妻橋になるが、寿輔は前半部分を大胆に割愛。導入部分を地の語りで説明し、吾妻橋のシーンから入る形に仕上げている。そのかわり、長兵衛が文七を助けるシーンや、近江屋の店内での大旦那とのやりとりはきめ細かく運び、人物の心の動きが手に取るよう。各人の会話にも、寿輔落語独特のリズムがあって心地よい。特筆すべきは近江屋での描写。通常は急ぎ足になるこのくだりも、大旦那、番頭の優しさが横溢し、名場面になっている。笑いあり、涙あり、気持ちよく聴ける一席である。<br/>
第17回「浜松町かもめ亭」での録音。
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https://rakugo.ch/play/117
2018-04-08T00:00:00+09:00