首提灯
江戸時代、武士と町人に身分の差があったころの噺である。舞台は夜ふけの芝増上寺山内。博打場で一儲けした男が一杯機嫌でぶらぶらと歩いている。目指すは品川の遊廓。儲けた金で廓にしけ込もうと言うのだ。江戸といっても夜になれば寂しい増上寺山内。近ごろ、このあたりで追い剥ぎや辻斬りが出るという噂を思い出した男は、恐怖心をごまかすために虚勢を張って「出てこい!試し斬り、辻斬り、追い剥ぎ!」と大きな声を出す。そこへ暗闇から声を掛けたのが一人の武士。使う言葉は田舎訛り。地方の武士が江戸勤番にやってきて間がない様子。「麻布へめえりてぇ、教えろ町人」という侍の野太い声に、酔っぱらいはカチン。虚勢を張って大声を出した手前もあり、「麻布へ行きたかったら西と東へ歩き、次に北と西へ歩き、それでも見つからなかったらその間を探せ」とふざけたことを言う。今度は武士の頭に血が上る。「この大小が目に入らぬか」と脅しに掛かる武士に町人はまたも啖呵を切る。互いに引くに引けなくなり、武士は大刀に手を掛けると・・・。<br/>
昭和の名人、五代目・柳家小さん、三遊亭圓生、八代目・林家正蔵などが手掛けた名作。サゲのある滑稽噺ではあるが、人物の会話には緊張感が要求され、武士が刀を抜いてからは上質のほら話のような展開を見せる。小さんの孫弟子に当たる喜多八は、酒に飲まれた主人公像をたくみに造型。この男、酔っぱらってはいるが、本当は夜道が怖い。それを隠すために大声を出すが、そこに突然、武士が現れたため、引っ込みがつかず、つい啖呵を切ってしまう。こうした「本心」と「態度」の乖離が、微細な描写で手に取るように表現されている。また、田舎侍も演者自身の御家人風の持ち味をうまく生かし、剛健さをよく表現。武士が男を斬った後、小さん、圓生らは「謡を唄いながら歩いていく」という型だったが、喜多八は無言で男の独り言に移る。緊張感を維持した演出である。マクラで披露している日本刀に関する逸話も面白い。寝ている男を試し切りする噺は「試し斬り」として、一席物に扱われる場合もある。<br/>
当テイクは2009年2月18日に開催された「浜松町かもめ亭 喜多八・白酒二人会」での録音。
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https://rakugo.ch/play/121
2018-04-08T00:00:00+09:00