一分茶番
今日は町内の芝居好きが集まって素人芝居の開催日。観客席はお客様で一杯。ところがいつまでたっても幕が開かない。というのも芝居に出演するはずだった伊勢屋の若旦那が楽屋入りしないのだ。若旦那の役は家宝の鏡を盗み出す盗賊。きっと役に不満があり、来なくなったに違いない。しかたがないので代役を立てろということになり、白羽の矢が立ったのが飯炊きの権助。日頃から少し芝居がかったところがある男で、番頭が話しを聞くと「田舎へ帰れば立派なお役者様だ」などと言い出す。番頭は権助に一分の小遣いをやると、盗賊の役をやることを承知させ、さっそく芝居の稽古。なにから何まで口移しで、一応はそれらしく見えるように仕込む。さて、いよいよ芝居の幕が開くが・・・。
むかしは芝居好きが集まって素人芝居を催すことがしばしばあったらしい。落語にも本作のほかに「蛙茶番」「九段目」など素人芝居をモチーフにした噺がある。この噺の主人公である権助も「田舎では忠臣蔵のお軽を演じた」と自慢するが、これもあながち無理な設定ではなく、地方の農村には郷土芸能としての農村歌舞伎がいくつも現存している。兼好の口演は、知的で軽やか。権助の素朴さ、木訥さと番頭のやりとりが掛け合いのようで笑いを誘う。後半、盗賊役の権助と奴役の提灯屋が本当に「立ち廻り(格闘)」をしてしまう展開は無声映画を観ているような楽しさ。マクラで春風亭百栄について言及している。これは、前の高座が百栄で、季節外れの怪談を演じたことをサカナにしているのである。また、この噺は別題を「権助芝居」とも言う。<br/>
第35回「浜松町かもめ亭」での録音。
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https://rakugo.ch/play/125
2018-04-17T00:00:00+09:00