目黒のさんま
天下太平の徳川時代。ある秋の日、さる殿様が唐突に野駆け(遠乗り)を思いつき、馬をひかせると表へ飛び出していく。びっくりしたのは家臣一同。予定にない野駆けで何かあっては大変と、取るものもとりあえず、殿様の後を追う。到着した先は目黒の里。その頃の目黒は風光明媚な農村だった。野原で家臣と駆け比べなどをするうち、すっかり空腹になった殿様は「膳部を持て」と命ずるが、とっさのことで用意がない。そこへ、どこやらで焼く秋刀魚のよい匂いがしてきた。旬の秋刀魚を近くの百姓家で焼いていたのだ。匂いを嗅いだ殿様は「これへ持て」と所望するが、当時の秋刀魚は下魚。家臣は躊躇するが殿様は「目通りを許す」と重ねての所望。家臣は百姓から秋刀魚十匹を買い上げ、殿様に献上する。殿様は生まれて初めて丸焼きの秋刀魚に対面。おっかなびっくり箸を運び、今度はその旨さにびっくり・・・。
江戸時代は太平の御代が長く続いたため、大名家の殿様には世間知らずが多かったという。そうした殿様の生活を落語的に風刺した一席である。落語家によっては殿様を徳川将軍あるいは松平出羽守と固有人名を出して演じる演出もある。この噺のように地の文の描写で展開する噺を「地噺」と呼ぶ。兼好の口演は地の語りと殿様の鷹揚な口調、家臣たちの謹直ぶりをうまくミックスし、耳に心地よい。殿様のキャラクターも、家臣相手に無茶を言ったりもするが、根底には何のたくらみもないことがよくわかる。過度に風刺的にならず、秋の日和を感じさせるようなのどかな一席。マクラでは二人会の相手、春風亭百栄について面白おかしく語っている。<br/>
第35回「浜松町かもめ亭」での録音。
https://content-public.rakugo.ch/images/episode/spot_image/000/000/000/126/126_episode.main_image_large.jpg
https://rakugo.ch/play/126
2018-04-13T00:00:00+09:00