あちたりこちたり
まだ日のあるうちに銭湯へ出かけた亭主が午前様になって帰宅。女房に「こんな時間までどこへ行っていたの」と尋ねられ、思い出しながら語り出す一夜の物語。夕方、近所の銭湯「松ノ湯」へ出かけたが、臨時休業の張り紙がしてある。張り紙に曰く「従業員慰安のため温泉旅行中につきお休みいたします」。仕方なく、別の銭湯へ。屋号がちょっと変わっていて、丸の中に正の字、それに湯としてある(読み方は聴いてのお楽しみ)。お湯につかり、外へ出ると風邪をひいたか、くしゃみが出た。薬局をさがすうち、吸い込まれるように赤提灯の店へ。「風邪薬を熱くしてくんねえ」。熱燗で一杯やるうち、体もいい具合に暖まり、今度はタクシーを拾って銀座(銀座は銀座でも田端銀座)へ。なじみの鮨屋にあがり、飲み直すが、夜はまだまだこれから・・・。<br/>
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小満んの自作による新作落語「あちたりこちたり」。マクラでも語っているが、当初、古典落語を口演しようとしていたが、ほかの演者とネタが付く(似る)ことに配慮し、急遽、差し替えられたのが本作である。それが結果的にたいへんな好演になった。「あちたりこちたり」は普通の新作落語と構成がかなり違う。第一点は、物語が現在進行形ではなく、主人公の回想として語られる点。第二点は、ほとんどが主人公の一人語りであるというところ。ストーリーもあってなきが如く、夕方から深夜にかけての放浪をとろとろと語っていくだけである。しかしそれが面白い。台詞の隅々にまでセンスが行き届き、夜ふけに随筆を読むような味わいである。大人にこそ楽しんでほしい一席。第四回「浜松町かもめ亭」での録音。
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https://rakugo.ch/play/136
2018-04-13T00:00:00+09:00