猫の災難
職人の熊五郎、今日は仕事が休みで朝湯へ行き、さっぱりとしたところで「一杯やりてぇな」と呟くが、あいにく銭がない。そこへ顔を見せたのが隣家のおかみさん。見れば、鯛の食べ残しを捨てようとするところ。熊が訳を聞くと、飼い猫の病気に知人が鯛一尾を届けてくれ、身は食べたが頭と尻尾が残ったのであとは捨てるのだという。「鯛の頭は兜と言ってなかなか旨い。捨てるのならば貰いましょう」と熊は食べ残しの鯛を譲り受ける。そこへやってきたのが熊の兄貴分。「おれも仕事が休みなんだ。二人で一杯やろう」と嬉しい誘い。この兄貴分、台所を覗くと、くだんの鯛に笊がかぶせてあるのを見て、丸まるの鯛一尾だと思いこむ。「あの鯛で一杯やろう。片身は刺身で、片身は塩焼きで」と勝手に算段すると、「酒は俺が買うよ」と酒屋へ走ってゆく。残された熊は思案顔。笊の下にあるのは鯛の頭と尻尾だけ。兄貴が帰ってきたら怒るに違いない。無い知恵を絞った熊は、隣家の猫に鯛をさらわれたことにしようと決めて鯛を始末。五合の酒を買って帰った兄貴分にしどろもどろの言い訳をはじめるが・・・。
もとは上方落語の演目で、三代目・柳家小さんが東京落語に移植。以降、四代目、五代目の小さんも得意にした、いわば「柳家のお家芸」である。小満んは小さん門下のベテラン。師匠の芸をよく継承している。自分の盗み食いを猫のせいにしてしまうアイデアは江戸小咄にも見え、古くからあった趣向らしい。落語の「猫の災難」は、はじめの「鯛の言い訳」と後段の「酒の言い訳」、同じような場面が二度繰り返されるが、一度目は素面、二度目は酔態での言い訳とタッチがちがっているのがミソであろう。全体の眼目と言えるのは、二度目に出かけた兄貴分の留守に、ひとり事を言いながら熊が五合の酒を飲んでしまう場面。小満んの口演は、品よく運びながらも酒の魅力にあらがえず、ずるずると一人で飲んでしまう男の姿をくっきりと描いている。<br/>
第29回「浜松町かもめ亭」での録音。
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https://rakugo.ch/play/137
2018-04-13T00:00:00+09:00