素人義太夫
ある大店の旦那は義太夫に凝ったあげく、しばしば発表会を開き、奉公人や貸している長屋の店子に無理やり聴かせるのが困りもの。しかもその義太夫がとつもなく下手なのだからたまらない。今日も義太夫の会を開き、得意の演目を語るつもりでいるが、周囲の人間の考えることはみな同じ。長屋の店子連中は「仕事が忙しい」「無尽の会がある」「成田まで急用で出かける」「仕事が忙しい」「かみさんが臨月で産まれそう」などとあらん限りの言い訳を並べ、顔を出さない。店の者も同じ。発表会があると聞き、急に得意先回りをはじめる番頭がいたり、都合よく病気になる者が続出。妻子は実家に帰ってしまった。各人の言い訳を聞き、ようやく「逃げられている」ことに気づいた旦那はおかんむり。店の者には暇を出し、長屋の連中には出て言ってもらうと宣言するが・・・。
古典落語の名作「寝床」の前半部分だけを独立させた演出で、近年は「素人義太夫」という演目で定着している。この続きのあらすじを記しておく。旦那の激高に困った店の者や長屋の連中がシブシブ会にやってきて、旦那は機嫌が治る。義太夫の会がはじまるが、客は苦痛を避けるために酒をがぶ飲みし、料理をめちゃ食い。皆が座敷に寝入ってしまう。御簾をあげて客席の様子を知った旦那はふたたびおかんむり。しかし、一人だけ寝ないで泣いていた小僧がいたので、「義太夫の内容に感激して泣いている」と思い込み、「どこが悲しかった」かと聞くと、小僧は旦那のいる場所を指差す。首をかしげる旦那に「そこが私の寝床でございます」というのがサゲ。旦那がいつまでも義太夫を語っているので小僧は就寝できなかったのだ。
全長版の「寝床」は八代目・桂文楽の十八番。それにたいして、古今亭志ん生は今回の録音のように途中で切る演出を取り入れていた。百栄は周囲の人間の「欠席の言い訳」に噺の焦点をしぼり、笑わせる。豆腐屋が「がんもどきと生揚げの注文で忙しい」というくだりや、一番番頭が急に得意回りをするなど、古典のギャグそのままだが、生活の実感があって楽しく聴ける。
第23回「浜松町かもめ亭」での録音。
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https://rakugo.ch/play/206
2018-07-18T12:00:00+09:00