桃太郎DV
名作昔話のひとつ「桃太郎」。昔の子供は、親から寝物語に「桃太郎」の話を聞かせてもらえば素直に喜び、そのままスヤスヤと寝入ったもの。しかし、最近の子供はそうはいかない。「昔々、あるところで」と言えば「あるところ」とはどこかと聞き返し、おまけに「これは昔話の約束事で、固有の地名を出さないことで誰もが話の世界に入れるための工夫だ」などと講釈をはじめる始末。「おじいさんは山へ芝刈りに、おばあさんは川へ洗濯へ」という言い回しは「父の恩は山よりも高く、母の恩は海よりも深い」という意味を象徴したもの、家臣になる犬、猿、キジは恩義と知恵と勇気を表しているなど、大人も知らない知識を開陳し、親をタジタジとさせる――というのが従来の落語「桃太郎」。
今回の百栄版は、さらに現代の家族像にせまったもの。舞台は現代、アメリカの一軒家。どこかアブナイ父親が息子に「桃太郎」の話を語って聞かせるが・・・。
古典落語の定番作「桃太郎」を春風亭百栄が増補改訂した「桃太郎DV」の一席である。本来の「桃太郎」は、あらすじに書いたように、昔の素直な子供の姿と、知識だけ増えてこまっしゃくれた現代の子供を対比した滑稽小品。百栄の口演も、途中までは従来の「桃太郎」をほぼ踏襲している。百栄の個性が最大限に発揮されるのは、そのあとさらにアメリカの現代家庭を舞台に病んだ父親と、男の子のドラマがはじまってから。日本の昔話「桃太郎」を語っているはずが、なぜか話の内容は血みどろの暴力世界に変容し、観客を笑いと恐怖の世界にいざなう。その描写はハリウッド製B級ホラー映画のように意図的に安っぽく演出された「猟奇」ではあるが、母親がメキシコ野郎と駆け落ちしたというくだりなど、どす黒いリアリティがある。百栄は落語家になる前、アメリカのカリフォルニア州での生活経験があり、現地では寿司職人をしていた。この噺では、アメリカ経験がプラスに作用し、ほかの落語家にはない独特な世界をつくりだしている。
第23回「浜松町かもめ亭」での録音。
https://content-public.rakugo.ch/images/episode/spot_image/000/000/000/207/207_episode.main_image_large.jpg
https://rakugo.ch/play/207
2018-07-18T12:00:00+09:00