ちりとてちん
ある裕福な家での宴が急にとりやめになり、誂えた料理がそっくり残ってしまった。旦那は近所に住む竹さんを呼び、事情を話して食べて貰うことにする。この竹さんはさんはお世辞のうまい人で、振る舞われた灘の生一本や鯛の刺身、鰻の蒲焼きを「初めて食べました」「実在したんですか」などと言いながら美味しそうに食べてゆく。旦那が女中に冷奴を持ってこさせようとすると、女中のお清は「ひと月まえの豆腐があります」と言う。旦那はびっくりするが、持ってきた豆腐はもちろん腐っていた。食べ物を大事にしろという教えを守りすぎたためのことであった。旦那は小言を言うが、変色し、毛が生えた豆腐を目にして、あることを思いつく。竹さんとは正反対に憎まれ口ばかり言っている寅さんという男に、腐った豆腐を「台湾名物ちりとてちん」だと偽り、食べさせてしまおうというのだ・・・・・・。
宝暦年間に刊行された「軽口太平楽」という本に「酢豆腐」という小咄があり、それを脚色したのが同趣向の落語「酢豆腐」。町内の通人が腐った豆腐を粋がって食べる噺である。この噺をもとに三代目柳家小さんの門人、柳家小はんが改作をしたのが「ちりとてちん」で、小はんは一時期、大阪にいたため上方落語のレパートリーになった。以来、東京では「酢豆腐」、上方では「ちりとてちん」という棲み分けになっていたのだが、戦後、五代目柳家小さんなどが「ちりとてちん」を東京落語に直して口演、現在は手掛ける噺家の多い人気作になっている。鯉昇の口演は、前半、竹さんが酒や肴を旨そうに飲食するくだりが好もしい。お世辞の言い方がいささかオーバー気味ではあるのだが、そうやって世の中を渡ってきたとおぼしい竹さんの人間性がにじみ出ている。後半に登場する寅さんは口は悪いが悪人ではない。旦那の計略も、寅さんの苦悶も笑ってすませる程度の「いたずら」として描かれ、全体にほのぼのとした仕上がりの一席である。
この口演は2008年6月開催「日向ひまわり真打昇進披露会」で収録された。マクラで新真打、日向ひまわりに言及しているのはそのため。第18回「浜松町かもめ亭」での録音。
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2018-08-01T12:00:00+09:00