英国密航
ときは幕末。尊皇攘夷に傾く長州藩の毛利侯は家臣の井上聞多を呼び出し、英国への渡航を命ずる。当時、日本と英国には公式の国交は無かったが、毛利候はいずれ日本は西洋列強と闘うことになるだろうと予測し、来たるべき時に備えた敵情視察をすべし、という狙いである。ただし、海外への渡航は幕府の固い御法度。もし露見しても長州藩は責任を取らぬと言う危険な計画である。井上聞多は同じく長州藩の志士、野村弥吉、山尾庸三、遠藤謹助を誘い、江戸へあがり、さらに長州藩江戸屋敷の足軽、伊藤春輔を一味に加え、英国密航の策を練る。まずは江戸屋敷のお留守居役、村田蔵六(大村益次郎)を口説き、五千両もの軍資金調達に成功。さらに横浜の貿易商、マジソン商会に話を通し、秘密裏に船で英国に向かうことにする。そしてついに船出の日がやってくる。五人を乗せたキロセッキ号は横浜港を船出し、一路英国を目指す。五人の運命やいかに・・・。<br>
<br>
この「英国密航」のエピソードは実話で、五人は無事に渡航成功。数年後、日本に帰国し、明治維新を経て、井上聞多(井上馨)は明治政府の外務大臣に、野村弥吉、山尾庸三は高級官僚に、遠藤謹助は大阪造幣局初代局長に、そして伊藤春輔は伊藤博文と名を改め明治新政府の初代内閣総理大臣になった。近年では浪曲師、広沢瓢右衛門が持ちネタにしていたこの噺を、快楽亭ブラックが落語作家・小佐田定雄に翻案依嘱、すっかり落語に仕立て直して十八番にしている。浪曲の聴かせどころである横浜港からロンドンまでの道中付けをブラック版ではオミットし、代わりに「白浪五人男 稲瀬川勢揃い」のパロディで、「テムズ河河畔の場」を増補。歌舞伎に造詣が深い快楽亭ブラックならではの名場面になっている。ほかにも、真山青果ばりの弁舌場面や、時事ネタを盛り込んだギャグもあり、五十分の長尺をまったく飽きさせない内容。<br>
ブラック版「英国密航」はCD発売もされているが、これは下座入り・鳴り物入りの完全版。二代目・快楽亭ブラック、一世一代の傑作をご堪能あれ!!<br>
(第10回『浜松町かもめ亭』での録音)
https://content-public.rakugo.ch/images/episode/spot_image/000/000/000/320/320_episode.main_image_large.jpg
https://rakugo.ch/play/320
2018-12-05T12:00:00+09:00