崇徳院
ある大店の若旦那が病に伏せ、医者を呼んでも見立てがたたない。なにやら心の奥底に思っていることがあるらしいことがわかり、店に出入りの職人、熊が若旦那の心の内を聞き出してびっくり。なんでも、二十日ほど前に上野の清水様に参詣したおり、茶店で美しいお嬢さんを見初めたのが忘れられないというのだ。そのとき、お嬢さんは懐から短冊を出すと一首の和歌を書き付けた。そこには「瀬を早み岩にせかるる滝川の」と上の句だけがある。これはその昔、崇徳天皇が詠んだ古歌で下の句は「われても末にあはむとぞ思ふ」と続く。歌の内容からすると、お嬢さんも若旦那を慕っているに違いない。はたして二人の行方は・・・。<br>
<br>
源氏物語などの古典文学を引用するまでもなく、昔の知識人は和歌で恋の応答をした。そうした伝統文化を下敷きに、若い二人の恋心と、和歌など知らぬ無教養な熊公が四苦八苦するという滑稽噺である。なかに引用されている崇徳院(崇徳天皇)の和歌を現代語に直せば「滝の水は岩にぶつかると二つに割れるが、すぐにまた一つになるので、現世では結ばれなかった恋人たちも、来世では結ばれましょう」ということになる。龍志の好演は熊の江戸弁が見事。職人のからっとした気質が良く出ている。熊の女房も面白い。はじめは乗り気でないのに三軒長屋が貰えるとなると亭主をけしかけるたくましさ。落語的な夫婦像である。開口一番、龍志が「足をいためまして」と言っている。これは足の故障で高座の出入りがいささか不自由であることのお詫び。音だけでは分かりにくいので記しておく。<br>
<br>
2009年12月5日 第37回「浜松町かもめ亭 立川志遊真打昇進披露会」での録音
https://content-public.rakugo.ch/images/episode/spot_image/000/000/000/633/633_episode.main_image_large.jpg
https://rakugo.ch/play/633
2019-06-05T12:00:00+09:00